はれわたり

13年間にわたる「はれわたり」の品種開発ストーリー

はれわたるところ

一般的に1つのお米の品種を開発するまでには、最短でも10年の歳月を要するとされています。「はれわたり」は、2009年に育成をスタートし、13年の歳月をかけて開発されました。

おいしさで評価を受けている「はれわたり」ですが、その品種開発ストーリーの背景には、食味の追求以外に大きな目的がありました。

地方独立行政法人青森県産業技術センター農林総合研究所で、稲の品種開発に携わる神田伸一郎水稲品種開発部長に、「はれわたり」の開発エピソードについてお話を伺いました。

地球温暖化に負けない、高温にも強いお米

神田伸一郎水稲品種開発部長
水稲品種開発部長 神田伸一郎さん

「青森県でのお米の品種開発においては、おいしさに加え、寒さに強く病気にかかりにくいことが絶対条件でした。しかし、急激に進む地球温暖化の影響で青森県でも夏場に気温が高い日が続くようになり、従来の条件に加えて暑さにも強いお米の開発が求められるようになってきました。そうしたニーズに合わせて開発したのが『はれわたり』です」と、神田部長は語ります。

「はれわたり」は、食味が優れているうえに、高温などが原因でお米に割れが生じる胴割粒が少ないという特性を持っています。さらに、寒さにも強く、「いもち病」にも強いことが特徴だといいます。

胴割れ米
はれわたり(左)とつがるロマン(右)の胴割粒発生状況

また、神田部長によると、気候条件の異なる県内各地で栽培できる、食味の良いお米の品種開発も課題のひとつだったといいます。

「県産ブランド米の『青天の霹靂』は、2015年にデビューして以来8年連続で、日本穀物検定協会による米の食味ランキングで『特A』評価を受けています。しかし、『青天の霹靂』は、栽培エリアが津軽地域などに限定されるため、県南地域の農家さんからは、『自分たちも特Aクラスの食味の良いお米を栽培してみたい』という声が寄せられていたんですね。『はれわたり』は、『青天の霹靂』を作付けできない県南地域等でも栽培できるため、多くの農家の皆さんが食味の良いお米の栽培に取り組むことができます。胴割粒発生リスクを軽減し、農家の皆さんにとって作りやすいお米を開発することで品質を維持しやすくなり、青森県産米全体の評価アップにつながればいいなと思っています」。

何十万という個体数のなかから
スーパーエリートを選ぶ職人技

品種開発の手順は、大きく分けて「人工交配」、「選抜」、「固定」の3つの段階に分かれます。

まず、親よりも良い性質をもった稲を作るために、ある品種のめしべに別の品種の花粉を付ける「人工交配」を行います。稲の花が咲くのは、夏の暑い時期。少しの風でも花粉が飛ばされてしまうため、部屋を閉め切り細心の注意をはらいながら行います。稲の花は咲き始めてから1~2時間程度で閉じてしまうため、タイミングを逃さないよう手際よく交配を行わなければいけません。

交配作業
交配作業

交配してできた種をまいて育てた稲は、何十万という個体数にのぼります。そこから、両親の良い特徴を併せ持ったものを見つけ出し、目的にあったものを選んでいくのが「選抜」です。何度も選抜を繰り返し、5世代目になるころにはほぼ特性が固まって、選抜した稲の種を育てても親と変わらないようになってきます。これが「固定」です。何十万という個体のうち9割9分は淘汰され、最後に残るのは数系統のみだといいます。

個体選抜
個体選抜
田植え風景
選抜した系統の田植え

「私たち研究員は、毎日田んぼに入って稲を観察し、稲の長さや茎の強さ、倒れにくさ、モミの数などを調べていきます。もちろん、遺伝子選抜の科学技術も活用しますが、やはり7割は人の力によるところが大きいですね。1本ずつ手でさわりながら感触を確かめることでわかるんですよ。長年、稲と向き合ってきたからこそわかる“職人技”のようなものかもしれませんね」。

耐冷性の調査
耐冷性の調査

また、農林総合研究所では、11月から2月まで毎日、研究所の職員がお米の食味官能試験を行っています。甘さや粘り気、食感など、さまざまなチェックポイントを設けて評価を行い、これらのデータを集計・分析して選抜しています。このように、1つのお米の品種が誕生するまでには、気の遠くなるような多くの手間と時間を要します。

うるち米では県内初!
青森生まれの両親から誕生した生粋の青森米

神田部長は、これまで、青森県を代表するブランド米「青天の霹靂」や、酒造好適米「吟烏帽子」、米粉用米「あおもりっこ」などの水稲品種の開発に携わってきました。

「これまでの、青森県のうるち米品種は、父親か母親のいずれかに他県産のお米を採り入れてきました。しかし、『はれわたり』の両親は、『青系169号』と『青系170号』で、どちらも青森県が開発したお米です。両親ともに青森生まれのお米は、実はうるち米では県内初。研究に携わってきた先人たちの努力はもちろん、青森の気候風土や時代のニーズに合ったお米を、長年研究し続けてきた実績が実を結んだといえるのかもしれません」。

はれわたりを栽培する畑の様子
はれわたりを栽培する田んぼの様子

全国デビューを迎える今年は、記録的な猛暑日が続いた年。「暑さで大変な年でしたが、昨年に続いて『特A』が取れたらうれしいですね。『はれわたり』は、他の青森米と比べて粘りが強いのが特徴。炊くとふっくらと軟らかいですが、決してベチャベチャしているわけではなく、きちんと粒感があって食感が良いお米です。これまでの青森米にはないタイプのお米なので、ぜひ多くの方に召し上がっていただきたいですね」。

青森県産業技術センター 神田伸一郎さん

軟らかくもっちりとした食感と、かむほどに口のなかいっぱいにうま味が広がっていく「はれわたり」。まさに、「口福」ともいうべき豊かな味わいです。さっぱりした「青天の霹靂」と食べ比べることで、青森米の多様性、ポテンシャルを感じることができます。青森生まれの両親から誕生した、生粋の青森米。食べる人も、作る人も、青森の未来も、みんなが明るくはれやかになるようにという願いが込められたお米です。