刺身で味わう!津軽海峡がもたらす冬の至宝「風間浦鮟鱇」

本州最北端、下北半島の北西部に位置する風間浦村。津軽海峡を挟んで北海道を望むこの地は、冬になると荒々しい波と冷たい風が吹き付けます。この極寒の海で水揚げされるのが、村が誇るブランド食材「風間浦鮟鱇(かざまうらあんこう)」。一般的に鮟鱇といえば鍋料理ですが、ここではなんと刺身で味わえるのが最大の魅力です。

全国的にも極めて珍しい青森の冬ならではの美食体験と、それを可能にする秘密をご紹介します。

刺身で味わう!津軽海峡がもたらす冬の至宝「風間浦鮟鱇」

港からわずか30分。地の利がかなえる唯一無二の鮮度

風間浦鮟鱇の特徴はなんと言っても「生きたまま水揚げされる」こと。深海魚である鮟鱇は一般的に、陸地から遠く離れた水深が深い沖合に生息しており、底引き網で漁獲されることが大半です。網の中で海底を長距離引きずられるため漁獲時の生存率は低く、さらに帰港までの時間も要することから、水揚げ時点での鮮度はどうしても落ちてしまいます。

対して、津軽海峡の風間浦村・下風呂地区に面した海域は、港からわずか2〜3kmの地点で水深が急激に深くなる独特の地形をしています。「この恵まれた漁場環境により、鮟鱇を生きたまま水揚げできるんです。さらに、資源保護のため未成魚を再放流しているので、十分に成長した美味しい鮟鱇を安定して漁獲できるんですよ。」と語るのは、株式会社駒嶺商店の代表取締役であり、風間浦鮟鱇のブランド化を牽引してきた駒嶺剛一さん。


風間浦鮟鱇は、魚の通り道に仕掛けた帯状の網を引き揚げる「刺し網漁」で漁獲されます。一般的な鮟鱇の漁場は船で片道2時間以上掛かるといわれますが、風間浦村の場合はわずか30分ほど。この圧倒的な地の利により、鮟鱇を生きたままの状態で港まで運ぶことができるのです。

鮟鱇漁100年の歴史とブランド化への道

風間浦村の鮟鱇漁には100年以上の歴史があります。古くから、身や皮などをあん肝と味噌で和える郷土料理の「とも和え」や、干物にして保存食にするなどして食べられてきました。しかし、刺身にして食べるようになったのは十数年前からで、きっかけは、東京で180年以上の歴史をもつ老舗鮟鱇料理店「いせ源」の7代目当主が村を訪れたことでした。生きたまま水揚げされる鮟鱇は、江戸時代からの屋号を守るプロフェッショナルにとっても驚きの光景。駒嶺さんは「自分たちにとっては当たり前だと思っていたけれど、外の人から『こんな場所は他にない』と言われて初めて価値に気づいた」と当時を振り返ります。

  • (株)駒嶺商店 代表取締役 駒嶺 剛一さん

そのポテンシャルに目を向け、ブランド化の道へ。2010年に地域団体「ゆかい村風間浦鮟鱇ブランド戦略会議」を設立し、下風呂温泉郷の旅館での料理提供やイベントでの周知といった取り組みを経て、2014年には風間浦鮟鱇が鮟鱇として初となる地域団体商標に登録されました。


また、長きにわたる歴史の中では、鮟鱇にまつわる伝統的な技法が息づいています。鮟鱇は表面に強いぬめりがあるため、まな板の上で捌くのが困難です。そのため、捌き方として広く知られているのが「吊るし切り」です。まな板を使わずに、吊るした状態で包丁を使い手際よく解体するこの技法は、毎年3月に開催される「風間浦鮟鱇感謝祭」でも実演され、イベントの目玉になっています。

  • 風間浦鮟鱇感謝祭で行われる鮟鱇の吊るし切り

獲れたての鮮度を維持する取り組み

風間浦鮟鱇は生きたまま水揚げされる点がセールスポイントですが、水揚げ後に鮮度を保つための品質管理にも徹底したこだわりがあります。


まず、風間浦鮟鱇として出荷するのは5kg以上の個体だけ。さらに、水揚げ後はすぐに市場へ出さず、最低1日間は水槽の中で「蓄養」します。漁獲直後の鮟鱇は暴れてエネルギーを消費しており、過度なストレスにもさらされています。そのままでは鮮度や旨味成分が損なわれ、身の質が落ちてしまうため、水槽の中で安静にさせ捕獲時のストレスを取り除いてあげるのです。

  • (株)駒嶺商店の水槽で畜養している鮟鱇

そして出荷直前に行われるのが、いせ源直伝の「活締め」。脊髄を素早く切断することで暴れを防ぎ、旨味成分の浪費と身の硬直をストップさせます。同時に胃の内容物と腸を取り除き、入念に洗浄することで鮮度低下と臭みの発生を抑えます。こうした高度な処理技術により、獲れたての鮮度を24時間以上維持することが可能となり、遠隔地への高鮮度輸送を実現しています。

  • 水槽から出した鮟鱇は鮮度を落とさないように速やかに締めます

肝醤油でいただく絶品の刺身。「七つ道具」を余すことなく堪能!

こうして鮮度が保たれた風間浦鮟鱇の刺身は、美食家も唸る味わいです。透明感のある白身は、コリコリとした食感で弾力があり、噛むほどに甘みが出てきます。


そして、忘れてはならないのが「肝」の存在。 新鮮な肝を溶いた特製の「肝醤油」で食べる刺身は、肝の濃厚なコクとさっぱりとした白身が絡み合い、一段と深い味わいを楽しめます。また、肝を蒸して作る「あん肝」は「海のフォアグラ」とも例えられる珍味で、濃厚でクリーミーなその美味しさは絶品です。

  • 風間浦鮟鱇の刺身。添えられた肝を醤油にといて食べると旨味が増します

骨・あご・眼球以外はすべて食べられるといわれる鮟鱇。可食部を「七つ道具」と呼び、肝、皮、胃袋、卵巣、エラ、ヒレ、身(柳肉、ほほ肉)からなります。


大身とも言われる柳肉とあごから取れるほほ肉は、刺身で味わうことができます。ほほ肉は柳肉とはやや違った、コリっとした食感が特徴。ジューシーな肉質は揚げ物にぴったりで、唐揚げは定番料理の一つです。

  • 「七つ道具」に解体した風間浦鮟鱇

鍋やとも和えには七つ道具をすべて用います。部位ごとに歯ざわりや噛み応えがさまざまで、それらが口の中で渾然一体となるのが醍醐味。どちらも、それぞれの部位から染み出る旨み、肝の持つ滋味が味の決め手となるため、風間浦鮟鱇ならではの素材の良さが際立ちます。そのほか、煮こごり、酢味噌和え、味噌漬け焼きなど、さまざまなお料理で余すことなく鮟鱇の魅力を堪能できます。

  • 風間浦鮟鱇を使った料理。(右上から時計回りに)鮟鱇鍋、刺身、とも和え、煮こごり、唐揚げ

「西のフグ、東のアンコウ」と並び称される鮟鱇ですが、フグと同様に刺身で食べられるのは風間浦鮟鱇ならではの体験です。「鍋だけでなく刺身でも食べられる『風間浦鮟鱇』の名を全国に広めたい」と駒嶺さん。津軽海峡と唯一無二の漁場が生む活あんこうを、ぜひ現地で体感してみてください。

風間浦鮟鱇を味わえる場所

今回お話を伺ったのは

株式会社駒嶺商店 代表取締役

駒嶺 剛一 さん


(2026年2月)


「風間浦鮟鱇」の公式ホームページ

https://www.kazamaura.com/


次に読みたい特集

雪の下で蓄える甘み。「ふかうら雪人参」

雪の下で蓄える甘み。「ふかうら雪人参」

とろけるような味わい「あおもり十和田湖和牛」

とろけるような味わい「あおもり十和田湖和牛」

りんごの栽培技術を生かした「津軽の桃」

りんごの栽培技術を生かした「津軽の桃」

青森県初の淡水養殖サーモン「青い森紅(くれない)サーモン」…

青森県初の淡水養殖サーモン「青い森紅(くれない)サーモン」…