雪の下で蓄える甘み。「ふかうら雪人参」
世界自然遺産・白神山地の麓、日本海を見下ろす高台に位置する深浦町舮作(へなし)地区。この場所で雪に覆われる時期に収穫されているのが「ふかうら雪人参」です。
野菜とは思えないフルーティな甘さが特徴の、深浦町が誇るブランド食材。厳しい自然環境と生産者の情熱によって育まれる、そのおいしさの秘密を紹介します。
INDEX

白神の麓、厳冬が生む味わい
ふかうら雪人参の収穫時期は、雪が積もり始める12月から雪解けの3月頃まで。にんじんは土の中で凍るギリギリの温度にさらされると、自らを守ろうと糖分を蓄える生理機能が働きます。あえて寒さが厳しい環境に置くことで、糖度は、一般的なにんじんが7度前後なのに対して、ふかうら雪人参は9~12度にも達します。これはいちごに匹敵する数値。雪の下で眠ることで、特有の青臭さやえぐみが抜け、フルーツのように甘く、みずみずしい食味へと変化するのです。
海からの冷たい西風が吹き抜ける舮作地区。収穫作業はまず、深く積もった雪を重機でかき分けるところから始まります。雪をある程度までかき分けると、鮮やかな緑の葉が見えてきます。そこから土の中を掘り起こすと、紅色のふかうら雪人参の姿が覗きます。除雪や土掘りの際は、深く掘り過ぎるとにんじんを傷つけてしまうので、機械を使いながらも繊細な作業を要求されます。そうして雪原に一筋の畦(あぜ)ができると、そこからは一本一本、手作業での収穫です。雪すさぶ厳しい寒さの中、生産者団体・舮作興農組合の皆さんが列になり、丁寧に土を落としながらにんじんを掘り上げていきます。こうした手間暇を惜しまず収穫されるからこそ、他にはない格別な味わいが生まれるのです。
偶然の発見から始まったブランド化への道
今でこそ深浦町の特産品として知られるふかうら雪人参ですが、その誕生は全くの偶然によるものでした。1990年代、舮作興農組合では秋に収穫するにんじんを栽培していましたが、収穫を控えたある年の晩秋、早すぎる大雪に見舞われたことで畑は雪に埋もれてしまいました。現場で立ち尽くしたという当時の代表理事・坂本正人さん。手塩にかけて育てたにんじんを半ば諦めながらも、必死に土を掘り起こしてみると、そこには凍らないまま、ひときわ鮮やかな紅色のにんじんが息づいていました。そして食べてみると、これまでにないほどの甘みに驚いたそうです。
舮作地区以上に寒い地域ではにんじんが凍ってしまい、掘り起こせないほどの量の雪が降る。逆に気温が高い地域であれば、雪も少なく、特徴的な甘みが引き出せない。ふかうら雪人参は、この地域だからこその産物なのです。
この偶然の発見をきっかけに1996年頃から本格的な栽培がスタート。2008年に商標登録され、全国にその名を知られるようになりました。その後も地元関係者が努力と研鑽により商品価値を高めていき、2018年には地域団体商標に登録。名実ともに地域ブランドとしての地位を確立しました。
おいしさの理由は「寒さ」と「土づくり」
ふかうら雪人参の美味しさを支えているのは、雪による熟成効果だけではありません。徹底した「土づくり」へのこだわりがあります。
舮作興農組合では、完熟堆肥とえん麦をすき込むことで地力を養っており、畑の地面はふかふかとしています。また、農薬の使用回数も地域慣行の半分以下に抑えるなど、可能な限り自然に近い環境での野菜作りに努めています。「土づくりは自然のものをいかに応用するかが大事。あとは企業秘密で教えられないけれど(笑)」と語るのは、現在の代表理事の新岡重光さん。「すべての作物はミネラルが必要。海の風があるから芯まで甘く育つんだよ」とも。白神山地の麓である肥沃な丘は海に近く、潮風が運ぶミネラルも豊富に含まれています。
7月上旬~中旬に種をまき、本来の収穫期である秋を越えて雪の下で熟成させる。そうすることで、一般的な市販品に比べ、甘みを感じる「ショ糖」が約1.8倍、うま味成分の「グルタミン酸」が約3.9倍、「アスパラギン酸」が約1.8倍も含まれる、味わい深いにんじんに育ちます。
自然の力を引き出す探求心と技
ふかうら雪人参のおいしさを支えるのは、恵まれた自然環境を余すことなく生かす栽培技術です。
「これまでの雪人参は、自分としては100%納得できるものではなかった」。先代の坂本さんから代表理事を引き継いで5年目となる新岡さんは、ブランド食材としての評価が確立されてからも妥協せず食味の向上のために試行錯誤を重ねてきたと明かします。そして今シーズン(2026年産)、「ようやく納得できるものになった」と確かな手ごたえを感じています。
しかし、今シーズンはかつてない試練にも直面しました。昨夏の記録的な猛暑による発芽不良に加え、全国的な問題となっているクマによる食害が多発。収穫量は平年の7割程度に留まる見込みで、被害額は甚大なものになっています。
新岡さんはいくつもの食害対策を講じていますが、雪人参づくりと同様、あくまで自然の力を頼りに知恵を絞ります。「作物だけでどこまで止められるのかを考えている。クマが嫌がるねぎやたまねぎを植えたり、酢を撒いたり…」。厳しい状況の中でも、新岡さんの探究心は尽きません。
おすすめの食べ方
丹精込めて作られる、ふかうら雪人参。そのおいしさを満喫できる食べ方を教えてもらいました。
新岡さんの一番のおすすめは、やはり生食。特に皮目に強い甘みがあるため、皮をむかずにスティックにするのがベストです。芯の部分は雑味がなくみずみずしい食感で、皮目との味わいのグラデーションが楽しめます。
フルーティさを堪能するなら生ジュースが一番。野菜とは思えない、さらっとした上品な甘さに驚かされます。このジュースを煮詰めると、なんとジャムに変身。「にんじんだけでこんな味が出るなんて自分でも驚いたよ!」と新岡さんが言う通り、砂糖が入っていないのに蜜のような粘りと、濃厚で芳醇なコクが生まれます。取材時に振る舞っていただいたプリンも、生ジュースを使ったもの。甘さの向こうにはカラメルソースのような香ばしさも感じられ、食材としての可能性に舌を巻きます。
ジュースの搾りかすはハンバーグの材料に混ぜ込むのがおすすめ。ふかうら雪人参は加熱することでさらに甘さが引き出されます。天ぷらのような定番料理もふかうら雪人参で作ると、一味違う美味しさ。一本を丸ごとローストして作る焼きにんじんも、ほくほくとした食感が楽しめます。
今が旬のふかうら雪人参、ぜひご賞味ください!
「ふかうら雪人参」を購入できる場所
今回お話を伺ったのは
農事組合法人 舮作興農組合 代表理事
新岡 重光 さん
住所:青森県西津軽郡深浦町舮作堰根152
(2026年1月)










