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産地情報 ~素朴な味わい、八戸伝承「糠塚きゅうり」~ 金濵和弘さん・麻由美さん (2024年7月)

素朴な味わい、八戸伝承「糠塚きゅうり」

八戸市の伝統野菜「糠塚きゅうり」。長さこそ約20センチと、一般的な緑色のキュウリと同程度ですが、太さが直径5センチ、重さは大きいもので500グラム(平均で400グラム)とずんぐりしているのが特徴です。旬は6月下旬から8月中旬まで。一般のキュウリに比べて収量が少なく、栽培も難しいことから生産者が減少したことで歴史が途絶えかけた野菜ですが、伝承に向けた取組が進むのと同時に独特の食感や風味が見直され、近年は再び小売店にも並ぶようになりました。さわやかな苦み、シャキシャキ、パリパリとした素朴な歯ごたえは夏にぴったりの清涼感を食卓に運んでくれます。

存続危機を乗り越えた在来野菜

糠塚きゅうりは、その名の通り、八戸市にある糖塚地区を中心に栽培されてきた在来野菜。江戸時代、南部藩の参勤交代をきっかけに種子が伝わり、野菜の供給地だった糠塚村(現在の糠塚地区)に植えられたことが始まりとされています。キュウリと聞いてみなさんがイメージする緑色のものとは異なり、実が太く、外皮は黄色がかった薄緑色をしています。

一般的なキュウリとは異なる独特の食味が魅力の糠塚きゅうり。しかし、1株当たりの収量は緑色キュウリの10分の1程度と生産性に劣り、収穫の翌日には皮が黄変、寒さや病害の影響も受けやすいことから、栽培をやめたり、収益性の高い緑色キュウリに作り替える農家さんが相次ぎました。さらに糠塚きゅうりは他の品種と交雑しやすいこともあって、一時は存続の危機に瀕します。そこで純粋な種子と生産技術を後世に伝えるべく、市内の生産者を中心に「八戸伝統野菜糠塚きゅうり生産伝承会」が2014年に発足。現在は生産量を持ち直し、糠塚きゅうりのシーズンである6月下旬を迎えると八戸市内の小売店でも販売されるようになりました。

住宅地にある「糠塚きゅうり」の畑
「糠塚きゅうり」の畑
成長した「糠塚きゅうり」
成長した「糠塚きゅうり」

「本家」あわや断絶、夫婦で継承

八戸伝統野菜糠塚きゅうり生産伝承会で使われている種子は、糠塚地区で100年近く生産を続けてきた金濵家のもの。現在は5代目にあたる金濵和弘さん・麻由美さん夫妻が栽培しています。「子どものころは各地域で太いキュウリが作られていて、まとめて『地きゅうり』と呼んでいた」と金濵さん。いつの間にか「糠塚きゅうり」という呼称が広まったのは、伝承会に種子を提供した父・一美さんの働きによるものでは?という持論を笑顔で紹介してくれました。

「糠塚きゅうり」生産者の金濵和弘さん・麻由美さん夫妻
「糠塚きゅうり」生産者の金濵和弘さん・麻由美さん夫妻

種子提供について、当初は難色を示していたという一美さん。「糠塚きゅうりがなくなる、もしもの時に備えて『分家』を作っておくといいのでは」という金濵さんの説得を受けて決心したそうです。伝承の取組をきっかけに八戸市外でも生産されるようになりましたが、「本家」についてはあわや断絶、という局面を迎えました。2019年6月に一美さんが逝去。そのとき金濵さんは、糠塚きゅうりづくりをもうやめよう、という気持ちを抱いたそうです。そこで一念発起したのが麻由美さんでした。理由については「だって自分が食べたいもん」とにっこり。金濵さんは「(麻由美さんが)いなかったら、おそらくやめていた」と、しみじみ語っていました。

金濵さんが育てた糠塚きゅうりは、本業の板金工場を兼ねた自宅敷地内にある無人販売所に並びます。旬を迎えると一美さん時代からついたファンが買い求めに訪れ、「『今年も食べられる』『あの味が楽しめる』という声を聞くと、糠塚きゅうりを残してきてよかったと思います」と金濵さん。「それがじじ(一美さん)の思いだよね」と言い、つい涙ぐむ麻由美さんの姿も印象的でした。

金濱さんの自宅敷地内にある無人販売所
金濱さんの自宅敷地内にある無人販売所
先代の一美さん時代から「糠塚きゅうり」を販売している
先代の一美さん時代から「糠塚きゅうり」を販売している

ルーツ・糠塚の地で守る種

糠塚きゅうり発祥の糠塚地区は中心街にほど近い好立地から住宅地になっています。かつては各所にキュウリ畑がありましたが、代替わりで後継者が不在となり、田畑は見る見るうちに宅地へと変わっていきました。現在、糠塚産の糠塚きゅうりを販売しているのは金濵さんのみ。自家消費している方を含めても生産者はわずか3軒ほどといい、ルーツはかろうじて残っているというのが実情です。「伝統野菜は現地に来ないと食べられないからこそ価値がある。『糠塚きゅうり』なのに糠塚にないのはおかしいでしょう」と金濵さん。自宅からほど近いところにある畑では、畝に藁を敷き、米糠や煮た大豆や小豆を肥料にするなど、一美さんの姿から見覚えした栽培法を一切変えずに糠塚きゅうりを守っています。「手間がかかって面倒だけども、そうしないとおいしいものが採れない。代々続けなければ、という気持ちもあるけれど、結局は自分も根っからの農家なんだと思います」

「糠塚きゅうり」生産者の金濵和弘さん・麻由美さん夫妻

定番の味噌からピザ風まで!?食べ方いろいろ

そんな思いのこもった糠塚きゅうりを、麻由美さんがさまざまな形でお料理してくださいました!
まずは最も一般的な、生のキュウリに味噌をつける食べ方。皮はパキッとして歯ごたえがあり、肉厚な身からは青臭さのない、さわやかな香りが感じられます。金濵さんはその独特な食感を「シャオシャオ」と表現。「おいしくするにはキンキンに冷やすのが大事。糠塚きゅうりの風味を一番感じられる食べ方」といいます。薄切りにして塩もみした身を使った味噌和えもシンプルながら飽きの来ないお料理。合わせた大葉の香りが糠塚きゅうりのさっぱりした食味を引き立てて、夏にはぴったりの心地よい一品です!

地元に伝わるこうした食べ方に加え、最近では料理人による新しい調理法も提案されています。これらを参考にしたという麻由美さんが次に出してくださった一皿は、なんとピザ風!半分に切った後、あらかじめ火入れした糠塚きゅうりの上にキムチとチーズを盛って焼きます。身が厚いため焼いてもジューシーなままで、味の濃い具材にぴったり調和していました!続いて登場したのは糠塚きゅうりのスープ。皮ごとすりおろし、白だしと塩で味を調えます。たっぷりの水分をたたえた糠塚きゅうりならではの一品。味付けを濃い目にして、そうめんなどのつけ汁にするのもおススメです。塩こうじで和えたり、砂糖と酢でマリネにするのも、定番の味噌和えとは違った味わいに。薄切りせず、厚めにして違った食感を楽しむのもいいですね!

「糠塚きゅうり」のさまざまなお料理
「糠塚きゅうり」のさまざまなお料理

さわやかな苦みが魅力の糠塚きゅうりですが、ものによっては苦すぎる場合も。皮と身の間が一番苦いため、皮をむいて食べたり、それでも苦みが強い場合は塩もみしてお肉などと一緒に炒めるとおいしく食べられるとのこと。皮はすぐに黄変しますが、それに合わせて食味が変わることはないそうです。

夏の食卓を鮮やかにしてくれる糠塚きゅうり。見かけたらぜひ手に取ってみてくださいね!

「糠塚きゅうり」を購入できる場所

  • 金濵さん宅・無人販売所(青森県八戸市糠塚柳ノ下6-2)
  • 南部地方のスーパー・産直施設
糠塚きゅうり

今回お話を伺ったのは

糠塚きゅうり生産者 金濵 和弘さん

糠塚きゅうり生産者
金濵 和弘さん

糠塚きゅうり生産者 金濵 麻由美さん

糠塚きゅうり生産者
金濵 麻由美さん


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