青森県では、真冬の厳しい寒さを利用してさまざまな冬野菜が栽培されています。今回は、そのなかから「寒締めほうれんそう」をご紹介します。
凍結を防ぐために糖分を蓄積。甘味と旨味がアップ!
寒締めほうれんそうは、冬期間、無加温のビニールハウスで約3カ月間かけてじっくり栽培します。ほうれんそうは、凍結を防ぐために水分を放出して体内に糖分を蓄積します。そのため、夏採りのほうれんそうに比べて甘味が増し、葉も肉厚になるのが特徴です。
もともと、ほうれんそうは、鉄分、ビタミン、カルシウムなどの栄養素を豊富に含み、緑黄色野菜のなかでも栄養価の高い野菜と言えます。そんなほうれんそうですが、寒締めすることにより夏採りほうれんそうに比べてビタミンCが増加するなどさらに栄養価が高まるといわれています。また、冬場は病害虫の発生が少ないため、農薬をほとんど使わずに栽培することができます。
岩木川のもたらす肥沃な土壌と人々の惜しみない努力で、有数の野菜産地になった弘前市清野袋地区
寒締めほうれんそうは、青森県内では弘前市、新郷村、南部町、東北町などで生産が盛んです。産地のひとつである、弘前市清野袋地域は、市中心部の北部に位置し岩木川河川敷に隣接するエリア。もともと、りんごと米の複合経営地帯でしたが、農家の所得向上をめざし、1958(昭和33)年に「清野袋蔬菜生産出荷組合」を立ち上げました。
岩木川沿いに広がる一帯は、沖積土壌地帯に位置する水はけの良い場所で、岩木川によって運ばれた栄養豊かな土が野菜作りに適していたのだそうです。清野袋地域では、長年にわたり地域ぐるみで減農薬・減化学肥料栽培に取り組む一方、栽培講習会などを通じて生産者の栽培技術向上を目指し“人づくり”にも尽力。その結果、今では津軽地方有数の野菜産地として知られています。
寒締めほうれんそう生産者のハウスを訪ねて
弘前市清野袋地区でほうれんそうを栽培している石田嘉人さんを訪ねました。石田さんは、総面積200アールの畑でトマトを中心にレタス、ネギなどを栽培し、冬場はビニールハウス20棟でほうれんそうの栽培を行なっています。
「このハウスのほうれんそうは、昨年10月中旬に種を蒔き、年明けから収穫を始めました。今冬は寒波の影響で例年より成長が遅いですが、これから2月にかけて最盛期を迎えます。寒さが厳しくなるに従って、さらに旨味が凝縮するんですよ」と、笑顔で語る石田さんご夫妻。
ほうれんそうは、1日のなかでも気温によってその姿を変えるといいます。気温が低い朝方は葉を地面に広げていますが、お昼頃になって気温が上がると葉っぱがピンと張った状態に。そして、夕方になって気温が下がると再び葉を広げるといいます。
旨味がダイレクトに伝わる「おひたし」をはじめ、洋食や鍋料理にもおすすめ!
石田さんの奥様によると、「冬のほうれんそうは甘味が凝縮しているので、シンプルにおひたしで食べると素材本来の旨味が味わえます」、また、「根元の赤い部分もおいしいので、根元に包丁で十字に切り込みを入れて、熱湯でさっとゆでたら冷水にさらしてあくを抜いて食べてください」とのこと。さらに、ゆでて食べやすく切ったほうれんそうに手でちぎった焼きのりを加え、しょうゆとごま油でさっと和えるのもおすすめだといいます。
葉が肉厚で食べ応えがあるので、パスタやグラタンなど洋食の具材にしても存在感たっぷり。また、ほうれんそうと豚肉のみを使用した「常夜鍋」は、“毎晩食べても飽きがこない”ことから名付けられた鍋料理。ほうれんそうがおいしいこの時期にこそ味わいたい絶品鍋料理です。
このほか、石田さんにほうれんそうの保存のコツも教えてもらいました。
購入後すぐに調理しない時は、新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室に軸を下にして立てておくと鮮度を保つことができるそうです。ぜひお試しください。
極寒の青森の冬が育む寒締めほうれんそう。天然の甘さが味わえる、冬の時期にたっぷり摂りたいヘルシーな食材です。今晩の食卓にぜひ取り入れてみませんか。