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消費地レポート

第91回

京料理「木乃婦」
三代目 高橋 拓児 氏

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【高橋 拓児 氏 プロフィール】
 1968年京都府生まれ。NPO法人日本料理アカデミー海外事業副委員長。大学卒業後「吉兆」で修業、日本料理の神髄を学ぶ。伝統的な日本料理を基本としながらも、フランス料理や分子化学の理論など最新の技法を積極的に取り入れた新しいスタイルの日本料理は、業界を代表する若手シェフとしてマスコミも注目。また、シニアソムリエや利酒師の資格を持ち、酒はもちろんワインにも造詣が深い。NHK教育「きょうの料理」に出演しているほか、現在は京都大学大学院農学研究科で日本料理を科学的に研究している。

<著作> 『10品でわかる日本料理』(2013/10)日本経済新聞出版社


 今回は、青森県食安全・安心推進課「あおもり食命人」育成研修に来青された 京都の料亭「木乃婦」三代目の高橋 拓児さんの講演をお届けします。(一部抜粋)
 高橋さんは、青森の食材について「特に魚の鮮度と安さに感動しました。また、青森の地元では捨てられている食材が、京都では珍味とされ高額で取引されているので、宝がいっぱい埋もれているのでは」と青森の食材について、期待してらっしゃいました。
 「北海道産の昆布、特に利尻や羅臼では、年に1日だけの解禁日に船で昆布漁を行う。海の中で生きている昆布をとってきて乾燥させ、小屋で何年も置いておくことで美味しい出汁がとれる昆布となるので、風間浦(下北半島)の昆布もそのようにしていくと、もっと美味しい出汁がひけるのでは」というお話をしていました。

演題「本物のダシを学ぶ」

 今日は「ダシ」のお話をしようと思います。1 お集まりになっていらっしゃる方は、私と同年代か、少し上の方達とお見受けしますので、美味しいと思う感覚も同じだと思います。美味しいと思う感覚や食感にはその時代の流行があります。

 鮎の焼き方にしても、ちょっと前までは、鮎に焼き色を付けず、白く焼くのが主流でしたが、今では、外側の皮は焼き色を付けてかりっとさせ、中はしっとりと焼く焼き方が、主流となっています。鮎本来の白い色を失わずに焼くという昔の焼き方は、その時代の美意識でした。

 私たち料理人にとって一番大事なことは、情報に敏感であることです。 時代とともに美意識は変わります。 鮎を白く焼き上げるのも、焼色を付けるのも、時代の要請であり、その時代の美意識です。料理人はその時代時代にあった味を追求していくことが求められ、流行とともに、それを伝統として繋いでいかなくてはなりません。時代に迎合する部分と、伝統を守る部分がなくてはなりません。

 ダシのとり方にしても変わりました。 どうしたらダシの精度を上げ、さらに美味しくするにはどうしたらいいのか。科学的根拠と現代的な思考を併せ持ち考えていかなくてはなりません。

 皆様のお手元に、利尻昆布と下北半島の風間浦村産昆布を用意しました。 まずは、香りを嗅んでください。

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利尻昆布と風間浦産昆布
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利尻昆布と風間浦産昆布

 利尻昆布のほうは、香りをあまり強く感じないと思いますが、香りの余韻が長いです。一方風間浦産昆布は、磯の香り、炙る前の海苔の香りがすると思います。これは、利尻昆布は3年熟成したものであり、風間浦産昆布は、1年ほど寝かしたものです。利尻昆布は、熟成後湿度が50~70%になり、温度5度~25度で冷暗所に保管しておいたものです。熟成とともにだんだんと水分が抜け、均質化されていきます。 今度は、食べてみてください。 風間浦産昆布のほうは、海の昆布の味が強く残っていて、味わいが単調な感じがします。利尻昆布の方は、芳ばしい感じがすると思います。意外と薄い感じがします。これは、甘味成分や塩分、良い香りが熟成することによって、一体化したからです。口に入れておくと、味と香りは長く続くと思います。 それぞれの昆布が持つ特性も関係ありますが、旨味成分というものはそれほど変わりがなく、熟成によって引き出された度合いによります。

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鰹節は枕崎か山川

 京都のおダシは、基本的には鰹ダシと昆布ダシです。昆布は利尻昆布を主に使います。これは、甘味が特出していたり、旨味が特出していると、素材の味を邪魔してしまうからです。
 鰹節は、鹿児島の枕崎か山川の鰹節を使います。鰹節の生育環境が違うからです。静岡県の焼津でも鰹節をつくっておりますが、主な餌はイワシやアジです。鹿児島の鰹節もイワシやアジも食べておりますが、甲殻類を食べております。そのため、バランスよく邪魔になるような癖のある香りが少ないのです。

 日本料理の特徴は、旨味成分を基本に構成しているので、旨味成分を入れることで、より味を深くすることが出来ます。ナスの煮浸しも、お水でやるのとおダシでやるのとでは全然違います。素材の味を大事にし、日頃食べているものより、文化的な奥行を出すことが大事です。
 おダシのとり方も、15年前ほどとは変わりました。 昔は昆布を水に浸け、90度のお湯に入れ、味が出たら昆布を引き上げるというものでした。今は、60度から70度で1時間ほどかけてゆっくり出すというものです。大体、1.8リットルに昆布が30g、鰹が50gという割合です。昆布のタンパク質は72度から75度くらいで溶け出て、60度以下では濁ります。 今、私たちがやっているダシのとり方も、暫定的なものであり、昔と同じく、変わるかもしれません。前に当たり前と思われていたことが、実は、暫定的なことで、私たち料理人は、常に新しいものを目指しています。

 先ほど、風間浦の昆布でもおダシをとりました。 色が出ていますね。 昆布ダシの色にもそれぞれ特徴があります。利尻昆布は、濃いめの色が出ます。 次が羅臼昆布、真昆布と続きます。 昆布によってもダシのとり方が違います。利尻昆布は、水出しではなく、60度のお湯で、一方、羅臼昆布は、水出しで出したほうがいいです。
 昆布それぞれの特徴はありますが、ベースは水です。お水には硬度という指標があります。硬度とは、水の中にあるミネラルのうち、カルシウムとマグネシウムの合計の指標で、簡単に言うとカルシウムとマグネシウムの量が多いと硬水、少ないのを軟水と言います。日本の水道水は沖縄県を除いて全国的に軟水で昆布出汁に合った水と言われてきました。日本の水の硬度は、40度~60度。出汁は日本全国どこでも引けます。海外では、硬度が高かったり、水質が良くなかったりで、ダシが取れない地域があります。魚も生で食べられない地域もあります。水が綺麗で、硬度のちょうど良い日本では、魚の干物が各地にあります。

 鰹節は、万能で飽きが来ないおダシです。水、昆布、鰹節、椎茸があって精進料理のたき物が出来ました。精進料理は、仏教の伝来とともに、完成しました。 "殺生をしない"は"自分が生かされている。自分自身を見つめ直す"ということで、自分自身が悟りを開く料理ということです。
 日本料理は、制限された中で、独特の美意識を生み出し、制限を克服して進化してきました。 奈良時代には、唐物が入ってきてテーブル様式で食事をしていました。品種改良が進み野菜の栽培も盛んになり、昆布と椎茸で美味しい煮物も作られていました。平安時代になると、国文学と料理が結びつき雅な風流を主とした料理になりました。鎌倉時代には、禅宗の影響で豆腐や昆布を使うようになりました。

 今お出ししているダシは、先ほどとった風間浦産の昆布ダシです。通常の倍量の醤油を入れました。昆布の磯の香りと風味が強いため、醤油を多く入れないとバランスが取れないためです。昆布や鰹を吟味することにより、塩分量は、減らせると思います。塩分を制限しようと思えば、元々の素材を吟味することです。
 料理人が手を加え、素材の特性によって変え、調味料を少なくし、素材の味を引き出し美味しくなったと思ってもらうことが、料理人です。料理は、昆布によってまでも、健康であるかないかという所までも入り込んでくるのが大事と思います。
 食文化は、美味しいものを楽しく食べ、その記憶を後世に残していかなくてはいけません。その後は、その後の人や時代に任せます。そのためには、教育も必要です。 私たち京都の料理人は、今でも、先輩方からお叱りやご指導を受けています。これが、食についてさらに進めていこうという姿勢であり、今後もこのような取り組みは必要かと思います。


情報掲載:2014年10月15日



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