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消費地レポート

第74回
ジャーナリスト
元・朝日新聞編集委員
村田 泰夫 氏

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【村田 泰夫(むらた やすお)さん プロフィール】
 1945年生まれ。北海道大学農学部卒業。1971年朝日新聞社に入り経済部記者として財政・金融など経済政策のほか農業問題を担当。経済部次長を経て経済、農業、環境問題を担当する論説委員、編集委員。退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学農学部客員教授を歴任。中山間地域等直接支払制度等に関する第三者委員会委員。
 主な著書に『戸別所得補償制度の衝撃』(2010年、農林統計協会)、『攻めの保護農政』(2011年、農林統計協会)


TPPと青森県農業


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 「TPPで日本農業は壊滅する」──TPP(環太平洋経済連携協定)が、わが国の農業界に激震を走らせている。もちろん、青森県農業も「らち外」ではない。日本や青森県の農業は、TPPでつぶされてしまうのだろうか。

 農林水産省は厳しい予測をする。日本の農業生産額のざっと半分が失われてしまうというのだ。農産物だけに限っても国内生産額は4兆1千億円減ってしまい、食料自給率は13%に激減してしまう。農林水産業が県の基幹産業である青森県としても、生産がざっと半分に減るとすれば由々しきことである。「もう農業の将来性はない」と悲観する生産者がいても不思議ではない。

 しかし、農水省の試算は罪づくりである。「何の対策を打たず、全世界から輸入される農産物の関税を即時ゼロにする」ことと、「消費者は1円でも安いもの(輸入農産物)を選択する」ことを前提としているからである。TPPは関税撤廃を原則としているが、期間については10年とか15年かけてという猶予が認められる。TPPに参加しない中国や韓国、欧州連合(EU)から輸入される農産物の関税を撤廃する必要はない。

 そもそも、農水省は何の対策もなしに関税をゼロにするつもりだろうか。そんなことは、あってはならないし、あるはずがない。非公式だが、関税撤廃による農産物価格の下落を生産者に補填するために「2兆5千億円が必要」という金額を、農水省ははじいている。

 TPP対策費にどのくらいの財政措置がとられるのか、いまの段階ではわからないが、多国間のTPPであれ2国間のEPA(経済連携協定)であれ、農産物の市場開放にあたって、国内の農業生産者に理不尽な犠牲を強いることがあってはならない。政府には国内農業と地域社会を断固として守る政策をとってもらいたい。

 「TPPに参加しても、心配することはない」とは現状ではいえない。何の対策もなく、消費者が1円でも安いものを選択するとすれば、農水省の試算のように国内農業も青森県農業も大打撃を受ける。といって、まだどうなるかわからないのに、おろおろすることもない。

 では、生産者はどうしたらいいのだろうか。第1に、生産コストを引き下げる地道な努力を続けることだ。第2に、価格は高くても安全・安心でき、おいしさで消費者に選択してもらえる高品質な農産物を生産することだ。第3に、品質に自信のあるものをつくるだけでなく、それを加工し、みずから販売するなど、付加価値を高める努力をすることだ。

 青森県農業の象徴である「りんご」は、平成6(1994)年に米国産りんごについて、日本は植物検疫上の制限を解禁した。りんご果汁については平成2年に数量枠の設定を廃止し自由化している。輸入を解禁した当時、「国産のりんごは、壊滅的打撃を受ける」と騒がれたものだ。米国産りんごの価格は国産よりずっと安く、「競争にならない」と国内生産者が心配したのである。結果は─解禁当初、都会のスーパーに米国産りんごが山積みされたが、ほどなくして店頭から消えてしまった。小さいうえ、おいしくなかったので、安くても消費者は選択しなかったのである。品質の差別化のむずかしい果汁は輸入物に押されて、生果の価格にも悪影響を与えているのは残念だが、「壊滅的打撃」を受けることはなかった。

 お米について、農水省は「国産米の9割が輸入米に置き換わる」と試算している。ほぼ4倍もの内外価格差があるからだという。輸入米に対抗するには、耕作規模を大きくしてコストを下げ、内外価格差を埋める努力が欠かせない。でも、多少の価格差は残っても消費者は国産米を選ぶだろう。自信を失うことはない。

 TPPへの参加に農業者が懸念を抱くのはもっともである。しかし、反対すれば日本農業の展望が開けるかといえば、そうではない。市場を開放しても国内農業と地域社会が崩壊することなく、消費者に喜ばれる農産物をつくる生産者の努力が報われる農政を切に望みたい。

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情報掲載:2012年2月15日



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